マーラはタトゥーアーティストになって6年、ゴスになってからはもっと長い。その間に、デートについて決めたルールはたったひとつだけだった。自分のスタイルを「一時的なもの」と呼ぶ男とは、2回目のデートはしない。
もっとも、ほとんどの男は2回目までたどり着かなかった。写真は気に入るのだ。黒いレース、シルバーの指輪、ダークな口紅。それなのにカフェで向かいに座ると、辛すぎる料理を頼んで後悔している人のような顔をする。
ダニエルは最初のメッセージから違っていた。「やあ、美人さん」でも、口紅への感想でもなかった。彼はこう書いた。プロフィールにヴィクトリア朝の墓地が大好きってあったね。ハイゲートとペール・ラシェーズ、どっち?慎重に選んで。これで全部が決まるから。
彼女は数週間ぶりに、スマホに向かって微笑んだ。
最初のデート
二人が会ったのは10月の寒い木曜日、The Cureを少し大きすぎる音で流すキャンドルの灯ったバーだった。彼は写真より背が高く、シンプルな黒いコートを着て、少し緊張しているように見えた。それが思っていた以上に好ましかった。彼は来る前にバーの歴史を調べてきていた。タトゥーについても聞いてきた。*どういう意味があるのか*ではなく、どれがいちばん痛かったか、*どれならもう一度描くか*を。
「肩のカラス」と彼女は言った。「19歳のときに自分で描いたの。ひどい出来。でも大好き」
「見てもいい?」
彼女は袖のレースをほんの少しだけずらした。彼は長いあいだ、真剣にそれを見つめた。絵画を見るときのように。
「ひどくなんかないよ」と彼は言った。「正直な絵だ」
自分のものについて、そんなことを言った人は今までいなかった。
散歩
バーを出ると、二人は古い街並みを歩いた。教会や閉まった本屋の前を通り過ぎる。雨が降り出した。街灯をぼんやり光らせる、やわらかい霧のような雨だ。マーラは彼が文句を言うと思っていた。けれど彼はアーチの下で立ち止まり、コートのフードをかぶって言った。「君のプレイリストって、まさにこういう天気の音がするよね」
彼女は笑った。心から、自分でも驚くような笑い方で。気がつくと二人は古い石のアーチの下でとても近くに立っていて、すぐ後ろで雨が降っていて、彼のコートからは杉と冷たい空気の匂いがした。
キスをしたのは彼女のほうだった。最初はゆっくり、確かめるように。それから、まったくゆっくりではなく。彼の手がレースの上から彼女の腰のくぼみに触れた。何かを尋ねるように、そっと。彼女は彼をもっと引き寄せることで答えた。
キャンドルの灯り
彼女の部屋はスタジオの上にあって、キャンドルと古い本と、誰のことも認めないレノーアという猫でいっぱいだった。ダニエルは10秒で正式に「認めない」と判定された。マーラはそれをいい兆しだと思った。
彼がスケッチブックをめくっているあいだ、彼女はキャンドルをひとつずつ灯していった。振り向くと、彼はドクロ模様の蛾の絵を手にしていた。
「いつかこれを僕に彫って」と彼は言った。
「最初のデートにしては重い約束ね」
「最初のデートのままにしておくつもりはないから」
彼女は部屋を横切り、彼の手からスケッチブックを取って置いた。キャンドルの灯りがすべてをやわらかくしていた。彼の顔も、ドレスの黒いレースも、窓を伝う雨も。彼が耳のすぐ下の首筋にキスをすると、その感覚が背骨を伝って下まで降りていった。
そのあとのことは、二人と、抗議するように部屋を出ていったレノーアだけの秘密だ。大切なのはこれだけ。夜明けにマーラが目を覚ますと、キャンドルは燃え尽きていて、ダニエルはまだそこにいて、そして初めて、何でもなかったふりをしたくないと思った。
6か月後
蛾は今、彼の前腕にいる。彼女が描いた。そして何年ぶりかで、彼女の手は震えた。
彼は今でも墓地のことを聞いてくる。春には二人でペール・ラシェーズに行った。
彼の選択は正しかった。



