佐藤健一は三十八歳、丸の内の商社で働いていた。給料は良く、部屋は広く、休日にすることは何もなかった。週末になると、必要のない物を通販で買い、届いた箱を開けもせずに積み上げていた。
ある雨の夜、彼は彼女を見つけた。OnlyFansのページで、彼女は自分を「女王 梓」と名乗っていた。認証済みのアカウント。白黒の写真。着物の袖からのぞく手首、黒い手袋、湯呑み。そしてルールが書かれていた。
最初に、あなたの毎月の上限を教えなさい。私はそれを決して超えない。 私からそれ以上を求めることはない。多く送れば、返す。 トリビュートはこのページだけ。他の方法は一切受け付けない。 毎週金曜日、一輪の花の写真を添えること。
上限
彼は「上限は気にしなくていい」と書いた。返事はすぐに来た。
上限がなければ、それは遊びではなく、ただのお金。あなたにとって意味のある数字を言いなさい。
彼は二日考えた。そして、正直な数字を伝えた。
よろしい、と彼女は書いた。では金曜日に、花を。
花
最初の金曜日、彼はコンビニの前で売っていた菊を撮って送った。小さなトリビュートと一緒に。
手抜き、と一言だけ返ってきた。来週は花屋に行きなさい。店の人に、季節の花を聞きなさい。
翌週、彼は会社の近くの小さな花屋に入った。生まれて初めてだった。店のおばあさんに季節の花を聞くと、「今はリンドウですね」と言われた。青紫の小さな花を一本買い、窓辺に置いて撮った。
よくできました、と梓は書いた。リンドウの花言葉を調べなさい。
「悲しんでいるあなたを愛する」。彼は画面の前でしばらく動けなかった。
金曜日
それは儀式になった。毎週金曜日、花屋で一本の花を買い、写真を撮り、小さなトリビュートを送る。梓は花について短く書いた。椿。凛としている。、コスモス。あなたは少し優しくなった。
彼は通販をやめた。部屋の箱は少しずつ消えていった。
返されたトリビュート
半年が過ぎたある金曜日、彼は昇進した。嬉しくて、彼は上限よりずっと多い額を送った。
一時間後、それは返ってきた。
いけません。嬉しい日こそ、約束を守りなさい。上限はあなたを守るためのもの。いつもの額を送り直して、今日の花を見せなさい。
彼は笑い、花屋へ走った。閉店間際だった。おばあさんが残っていた白い薔薇を一本くれた。
いつもの額と、白い薔薇の写真を送った。
おめでとう、健一、と梓は書いた。名前で呼ばれたのは初めてだった。
彼の部屋の窓辺には、今では小さな花瓶がある。毎週、新しい花が一本だけ入っている。



