フィクション · 18+浮気 · 復讐1分で読めます

玄関の靴箱

靴箱の奥に隠された二台目のスマホ。彩は泣かなかった。代わりに、夫に一時間ごとのメッセージを命じた。

A smartphone beside a lamp at night
Photo: Jerry Wang · Unsplash

彩は冬のブーツを出そうとしただけだった。玄関の靴箱のいちばん奥、夫の古い革靴の中に、見たことのない黒いスマホが押し込まれていた。

暗証番号は夫の誕生日だった。メッセージは八か月分。「ミカ」という名前。横浜のホテル。夫の大輔が彩には一度も言ったことのない言葉。

夕食

彩はいつも通り夕食を作った。肉じゃがと味噌汁。大輔が席に着いたとき、黒いスマホは彼の茶碗の横に置かれていた。

大輔は青ざめた。言い訳をし、謝り、泣いた。彩は黙って最後まで食べた。

「出ていかない」と彩は言った。「そんなの、あなたには楽すぎるから。今夜、私の目の前で彼女と終わらせて。それから、新しいルールを決める」

新しいルール

ルールは紙に書かれた。

一、彼女とは今日で終わり。 二、私は月に一度、好きな人と出かける。 三、その夜、あなたは家で待つ。そして一時間ごとに「待っています」と送ること。

大輔は震える手で、署名した。

金曜日

最初の金曜日、彩は何年も着ていなかった深紅のワンピースを着た。玄関でヒールを履きながら、振り返った。

「相手は、前の職場の先輩。ずっと優しかった人」

午後八時。待っています。

午後九時。待っています。

午後十時。待っています。早く会いたい。

彩はその通知を、ホテルのバーで、隣に座る男の肩越しに見た。そして画面を伏せた。

午前一時。待っています。

帰宅

彩が帰ったのは午前二時半だった。大輔はリビングのソファで、スマホを握ったまま座っていた。怒りを予想していた。だが彼の目にあったのは、まったく別のものだった。剥き出しの、切実な欲望。

「教えて」と彼はささやいた。「全部」

彩はヒールを脱ぎ、隣に座り、話した。ゆっくりと、すべてを。

黒いスマホは、もうない。靴箱には今、彩の深紅のヒールがしまってある。月に一度、それが玄関に出されると、大輔は黙ってスマホの充電を確かめる。

この物語はフィクションです。登場人物はすべて架空の成人(18歳以上)であり、実在の人物との類似はすべて偶然です。

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